調査・研究えひめの歴史文化モノ語り

第168回
2024.6.29

水の事故防止へ教訓も

県内各地の河童伝説

河童の狛犬(複製)=県歴史文化博物館蔵
 愛媛県内には天狗(てんぐ)・山姥(やまんば)・首なし馬・牛鬼などさまざまな妖怪伝説が伝承されているが、中でも河童(かっぱ)に関する伝説は数多い。
 その代表例として、西予市明浜町高山の若宮神社には鯛(たい)を抱えた河童型の狛犬(こまいぬ)が残されており、県歴史文化博物館ではその複製を展示している。河童の狛犬は全国的にも珍しく、岩手県遠野市の常堅寺(じょうけんじ)・長崎市の諏訪神社とこの西予市明浜町の若宮神社の3例のみといわれている。
 若宮神社の祭神である宇都宮修理太夫正綱が、いたずらをしようとした河童を助けると、そのお礼にと、河童が毎日、鯛を持ってきたという伝説があり、それに由来して、1881(明治14)年に若宮神社の社殿の前に河童の形をした狛犬が制作、寄進され、現在では西予市有形民俗文化財に指定されている。
 地元の言い伝えでは水難除けの御利益があるとされ、この高山地区では昔から子どもの水難事故が少ないといわれている。
 さて、八幡浜市穴井でも毎年旧暦4月5日に「えんこ祭り」が行われている。えんこは海に潜んでいる架空の動物で、海に入る者の足を引っ張ると地元ではいわれ、中国、四国地方では河童のことをえんこと呼ぶ事例が多く、この祭りは河童祭りの一種といえる。海岸に出ることが多くなる夏の始めに、その年に水難事故が起こらないよう祈願する行事である。
 祭りの日には穴井に住む親子が弁当を持って浜に出かけて、近くにある水天宮や龍神様の祠(ほこら)や、浜の波打ち際ににぎり飯を供えて、「えんこ様、お供えしますけん、どうか水難をのがれさせてください」と祈願してから弁当を開き、親子で食べると水難に遭わないという。
 また、今治市伯方町有津の海岸に「えんこ石」と呼ばれる大きな岩がある。その昔、いたずらをしようして捕まえらえた河童が今後は悪さをしないと誓った証文石として海から引き揚げたものだという。
 この岩は伯方島と鵜島の間の船折瀬戸に近く、潮の流れが速い場所にある。ここが危険な場所だと後世に伝えるために創出された妖怪伝説ともいえるだろう。
 このように愛媛各地の河童にまつわる伝説は単に恐ろしい話ということではなく、子どもをはじめ、住民の安心・安全を確保するための教訓が込められている。夏本番を迎えるこの時期に、あらためてこの種の地域文化を見つめなおしてみてはいかがだろうか。

(専門学芸員 大本 敬久)

※「河童の狛犬(複製)」は民俗展示室1で展示中。

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