調査・研究えひめの歴史文化モノ語り

第161回
2024.3.9

松山城下 パノラマ写生

画家・中島華鳳の旅行記録

中島華鳳「伊予国松山日記 厳島寶物日記 写生帳」(県歴史文化博物館蔵)
 (2024年)3月16日、瀬戸内海国立公園は指定90周年を迎える。県歴史文化博物館では、これを記念して特別展「瀬戸内海ツーリズム」を開催中である。当展示のテーマは「旅」。今回は、展示中の資料から、画家・中島華鳳の「伊予国松山日記 厳島寶物(ほうもつ)日記 写生帳」を紹介する。
 京都出身の華鳳は、円山派の画家であり、森寛斎に学び、書は富岡鉄斎に学んだ。当写生帳は、1914(大正3)年に広島・厳島から松山への旅における記録である。厳島神社から始まり、呉の軍港、音戸の瀬戸、松山の高浜等を描いている。広島の宇品港から高浜港への航路は、瀬戸内海旅行の中でも多くの利用客があった航路の一つで、厳島神社を参詣した後に船で松山まで渡り、道後温泉で一泊する旅程が人気であった。
 華鳳も宇品港から高浜港までの航路を利用したと思われ、瀬戸内海の特徴である多島美の風景を写生している。写生帳は冊子の形態を成しており、ページいっぱいに瀬戸内海の風景が描かれている。今回、特別展図録に掲載するために撮影したところ、面白い発見があった。冊子の見開きページの画像を並べてみると、なんと風景画が繋がり、パノラマ景が描かれていることがわかった。掲載画像は、天守から松山城下を一望するパノラマ写生である。各ページは見事につながり、華鳳の技術の高さがうかがえる。
 華鳳は今回紹介した写生帳の他に、石手寺などの札所や三津浜の漁業、砥部焼の製造や絵付けなどの写生帳、今治から船で香川へ渡った際の写生帳「讃岐国名所日記」も残している。(2024年)4月7日まで開催の特別展「瀬戸内海ツーリズム」では、大正初期の旅人が見た風景をうかがえる貴重な資料を展示している。この機会にぜひ、ご覧いただきたい。

(主任学芸員 甲斐 未希子)

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